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福岡家庭裁判所 平成元年(家イ)290号 審判 1989年5月15日

申立人 森田大介

相手方 舟木隆

主文

相手方は申立人を認知する。

理由

1  申立ての要旨

(1)  申立人の法定代理人親権者母森田美鈴(以下「美鈴」という。)は、昭和61年夏頃福岡市でダンスの教師をしていた国籍アメリカ合衆国、アラン・スタッフォード(以下「アラン」という。)と知り合い、同年11月6日福岡市南区長に対し、同人との婚姻届出を了し同居していた。

(2)  ところがアランは、同62年6月26日に美鈴とともにアメリカ合衆国カリフォルニア州○○市のアランの母の借家に移住し、同地で美鈴と同居をはじめたが、両者は間もなく不仲となり、美鈴は、同年8月下旬頃アランと別居し、以来、同人とは事実上の離婚状態となった。

(3)  美鈴は、アランと別居後、それまで勤めていた同市の日本人山崎サヨが経営する通称○○レストランに住込み稼働するようになり、一方、アランとの離婚の裁判申立を同地の弁護士に委任するよう山崎サヨに依頼していたが、アランが同年9月頃から行方がわからなくなったことで、申立てに至らずそのままになっていた。

(4)  美鈴は、昭和62年10月中旬頃、同店のバーテンであった相手方と親しくなり、同年10月末頃から○○市で相手方と事実上の夫婦として同棲生活をはじめた。

(5)  相手方は、美鈴を伴い同年11月16日ハワイ州○○市○○×××-××に移住し、やがて米国人弁護士ウイリアン・ドーナにアランとの離婚訴訟の提起を依頼した。

同弁護士は、昭和63年12月22日ハワイ州第一巡回家庭裁判所に上記離婚の訴訟を申立て、この事件は、現在、同裁判所に係属審理中である。

また、相手方は美鈴との生活を支えるため、昭和63年10月以降、○○市の日本人経営の○○ゴルフショップの販売員として稼働している。

(6)  美鈴は、昭和63年7月頃、○○市で相手方の子を懐胎したことに気付いたので、出産のため平成元年1月23日日本に帰国し、同年3月1日相手方の子である申立人を福岡市○区○○病院で出産した。

美鈴は、そのまま現在まで日本に滞在している。

(7)  以上のとおり、申立人は、美鈴がアランと別居後相手方と情を通じて懐胎したものであって、アランの子ではないことが明らかであるが、美鈴とアランとの離婚が遅れ、このまま出生届をすると、申立人の母美鈴とアランとの間の嫡出子として戸籍に登載されることになる。しかし、これは上述のごとく真実に反するもので、申立人の血縁上の父は相手方であるから、その認知を求める。

2  当裁判所の判断

(1)  平成元年4月11日本件調停委員会における調停において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、その原因事実についても争いがない。そして記録添付の戸籍謄本、出生証明書、家庭裁判所調査官○○作成の調査報告書の記載等を総合すると、上記1記載の事実をすべて認めることができる。

(2)  ところで、法例18条により子の認知の要件は、認知の当時その父に関しては父の属する国の法律により、その子に関しては子の属する国の法律によってこれを定めるべきである。そして、相手方申立人とも、日本国民と認められるから日本民法によることとなる。ところで、日本民法第779条によると、被認知者は非嫡の子でなければならないから、相手方が申立人を認知するには、申立人が非嫡の子であることを要する。

また、法例17条によると、子が嫡出であるか否かは、その出生の当時母の夫の属した国の法律によってこれを定めることになっているが、本件申立人の出生当時、母美鈴は、アメリカ合衆国の国籍を有するアランとの間に法律上婚姻関係を継続していたのであるから、申立人が嫡出であるか否かは、アランの属したアメリカ合衆国カリフォルニア州法によって定めることになる。そして、同州証拠関係法及び統一親子法によると、婚姻中に生れた子は、性交不能、不妊症その他性質上夫の子とは認められない特段の事情のない以上、一応は嫡出の子であると推定されるのであるが、この推定は、性質上父子たりえない特段の事情のあることが明白にして措信しうる証拠で立証されることにより、裁判手続上覆えしうるものとされているのである。(Eirdence Code §621, Uniform Parentage Act §7004参照)そうだとすると、本件申立人は、一応母美鈴とアランとの間の嫡出子であると推定されるが、その嫡出性の推定は、本件認知事件においてはこれを争うことができ、およそ父子関係の成立しえない事情の立証によってこれを覆えすことができるものである。

そして、本件では上記調査官の調査報告書によれば、アランは申立人が懐胎されたと思われる期間のずっと以前から行方不明で、母美鈴と全く性的交渉がなかったことが明らかであるので、この推定は完全に覆えされたと認めることができる。

したがって、申立人は嫡出子ではなく、上記事実関係からみて、美鈴と相手方との間に出生した非嫡の子であるといわねばならず、日本民法における認知の要件を全てみたしているので、申立人の本件申立てはすべて理由がある。

そこで、当裁判所は、家事調停委員○○、同○○の意見を聴いたうえ、家事審判法23条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 安部剛)

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